言いたいことが伝わらないpoisonな経験、ありますよね!情報過多な現代、「短く、わかりやすく、魅力的に」伝える重要性は増すばかり。柿内尚文さんの著書『バナナの魅力を100文字で伝えてください』は、「伝える」ではなく「伝わる」技術を解説。本記事では、その事例を紹介・解説していきます。どうぞ最後までお付き合いください。
比較をしないと魅力は伝わりにくい~比較の法則について
それではまずクイズです。
とある人気の魚屋さん。このお店では普通はあまり伝えない「あること」をお客さんに伝えているそうです。「あること」とはいったいなんでしょうか?
答え
「今日おすすめしない魚」を正直にお客さんに伝える。
そんなことをしたら、売れ残ってしまうのでは?と思ってしまいますが、それでいいそうなんです。
その魚屋のお客さんはほとんどが常連さんで日常的にそのお店を使ってくれる人なので、そういう人が「おいしくない魚」を買ってしまったら、お店の口コミが悪くなり、近所の大型スーパーに流れて行ってしまうかもしれません。だから、できるだけ正直に伝えているそうです。
この話には伝わる技術の1つである「比較の法則」が使われています。
「比較の法則」とは「ダメなものをあえて伝えることで、良いものが引き立つ」という方法です。
例えば、比較の法則は本のタイトルでもよく使われており『金持ち父さん貧乏父さん』や『頭がいい人、悪い人の話し方』などのベストセラー本も比較を使ったタイトルで、私の好きな著者である中谷彰宏さん著書の『「また会いたい」と思われる人「二度目はない」と思われる人』もAorBのような比較を使ったタイトルです。

例えば、とある居酒屋で日本酒の飲み比べというメニューがありました。

右から順番に長野県諏訪市の麗人酒造の日本酒「麗人 純米吟醸」、新潟県加茂錦酒造の「荷札酒」、福島県会津若松の宮泉銘醸の「會津宮泉 純米にごり生酒」。
どの日本酒も美味しかったですが、飲み比べをすることで、それぞれの日本酒のおいしさの違いがよくわかりました。
甘みや辛味といった味わいの違い、日本酒の香りの違い、口当たりの違い。単体で味わっただけではわからないそれぞれの魅力が飲み比べという「比較」をすることで際立ったわけです。
魅力や価値は比較をすることで明確になります。
「比較」することで違いが見える化し、魅力が浮き彫りになるのです。
話にふり幅を持たせる技術~フリオチの法則
フリとオチは、お笑いの世界でよく使われている技術です。
フリは、相手に「この先の結末はおそらくこうなるのでは」と思わせること。反対にオチは、その思考を裏切るような意外性や驚きを用意することです。このフリとオチによって笑いが起きるのです。
伝え方でも「フリとオチ」が重要になってきますが、伝え方における「フリとオチ」はお笑いとは異なってきます。
伝え方のフリとオチは「振れ幅を大きくして、より価値を見える化する」ことが重要です。
例えば…

うちの子が京大に入ったの!!
この言葉を聞いたらほとんどの人はこんなことを頭の中でイメージをするはずです。



頭のいいお子さんなんだな。
しかし、このような前フリがあったらどう思うでしょうか?



うちの子、高校3年になるまで勉強が嫌いで遊んでばかりで
ほんとに成績が悪くて、偏差値も30!!



そこから頑張って、塾にも行かないで、現役で京大に合格したの
このような話を聞いたらかなり驚くと思います。
いったいどんな勉強方法をおこなったのか、なぜそんな短期間で成績を伸ばせたのか。興味が湧いてくるはずです。
この一連の流れには「フリとオチ」が入っており、そのおかげで、話に興味が湧いてくるのです。
この「フリとオチ」をうまく活用し話題になったのが累計部数50万部を突破したヒット作『よめぼく』こと『余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話』です。ベストセラーになりネットフリックスにて映画化もされました。
「余命一年と宣告された僕」というフリがあるから「余命半年の君と出会った」というオチが生きてきます。
これが「健康診断A判定の僕が、健康診断B判定の君と出会った話」だと普通の健康な人同士の出会いでしかなく驚きは生まれません。
「フリ」と「オチ」の間に意外性、驚き、新奇性、憧れがあると、人の関心や興味を引くことができるのです。


事実と感情を分けて伝える~ファクトとメンタルの法則~
「伝える」というのは
①ファクト(事象・事実)を伝える
②メンタル(感情)を伝える
この2つに分かれます。
しかし、この2つがごちゃ混ぜになっていることがあります。
例えば…
彼女が彼氏にこんな相談をしました。



ねぇ、聞いてよ。
今日会社でひどいことがあったの。



私のやったことじゃないのに、ミスを私の
せいにされたのよ。信じられない。
これに対して彼氏はこう答えました。



それはひどいね。
そういうことが起きた原因は
コミュニケーション不足にありそうだね。



今後はコミュニケーション
を増やしたらどうかな?
この彼氏の言葉は彼女には全く届きませんでした。
これは、彼氏が「伝えるにはファクトとメンタルがあり、それを分けて考える」ということに気づいていないため起きたのです。
女性はなにかを話すときには感情に焦点を当てることが多く、反対に男性は事実に焦点を当てて話をすることが多いのでこういったボタンの掛け違いが生じるのです。
彼女が伝えたかったのは「メンタル」の部分。「ひどいのよ」という部分に対する共感です。一方で彼氏は「ファクト」に対する回答をしてしまったのです。
人類の進化には言葉(コミュニケーション)が深く関係しているといわれていますが、一方で言葉(コミュニケーション)はときに面倒なものでもあります。
コミュニケーションには常に「メンタル(感情)」というやっかいなものがついてまわります。特に日本人は、話の内容と人格を一体化させやすい傾向があるといわれています。「本音と建前」のように感情が事実に隠れている場合が多くあるのです。
ディベートがうまく進まない、答弁が喧嘩になる…。そうなると建設的なコミュニケーションをとることは難しくなってしまいます。
伝えるときは「ファクトとメンタルを分けて考え、伝える」。これを意識するだけで「伝わる力」があがるはずです。
「つまらない」は「工夫不足」へ~言いかえの法則~
皆さんはソフトバンクの孫正義さんの言葉で「髪の毛が後退しているのではない。私が前進しているのだ。」という言葉を聞いたことはありますでしょうか?
この言葉は「髪の毛が後退する(つまりハゲる)」というネガティブな事実を、「私が前進する」というポジティブな表現に言いかえをしているのです。
一見同じような内容であっても、どのような言葉を選ぶのかによって伝わる価値はまったく変わってきます。
どうせなら、お互いにポジティブな気持ちになったほうがいいし、背中を押したり、嫌な気持ちを楽にしてくれたり、そんなときに力を発揮するのが「言いかえ」です。
言いかえは「伝える価値を変換する」「伝える価値をずらす」ときに使える方法です。
さらに、言いかえは自分を楽しくさせてくれる方法でもあります。
例えば、「予定がキャンセルされた」 → 「自由な時間ができた」といいかえてみると予定がなくなったことがマイナスではなくプラスに感じられるはずです。
著者は「つまらない」を「工夫不足」といいかえているそうです。そうすると、気乗りしない会議があったとしても工夫が足りないと思えて、その会議を自分なりに有意義なものにするために工夫をするようになるそうです。
👇の表は著者が使っている言いかえワードの中で私が特に共感を持ったワードです。
元のワード(before) | 言いかえワード(after) |
---|---|
・失敗、ミス ・自己肯定感が低い、自信がない ・疲労、疲れた ・やる気がでない ・責任 ・不安、心配ごと | ・課題発見、気づき ・超謙虚 ・頑張りました ・休みどき、作業時間 ・信頼 ・修行 |
言葉を変えることは、思考を変えることにもつながり、思考が変われば、行動も変わります。
行動が変われば未来が変わります。言いかえはその第一歩でもあります。
イメージが見える化する~たとえの法則~
「〇〇界の大谷翔平」
「〇〇界のスターバックス」
そういわれると、初めて聞いた人や会社名であっても、どんな人物なのかどんな会社なのかがイメージがしやすくなります。
相手にとって身近なものにたとえる。これも伝わる技術です。
たとえることで相手の頭の中に「イメージが見える化」「自分ゴト化」する効果があります。
「コンピューターは知性の自転車」
これはスティーブ・ジョブズの言葉です。
このたとえは、スティーブ・ジョブズは、人間は移動のエネルギー効率が低く、生物のランキングでは下位に位置すると考えました。しかし、自転車に乗ることで移動効率が劇的に改善され、最も優れた手段に変わるのだと彼は述べています。そして、自転車が人間の身体能力を大きく高めるように、コンピューターもまた人間の思考力を飛躍的に向上させるツールであると彼は考えました。
このスティーブ・ジョブズの例のように、抽象的な内容を身近なものにたとえることで抽象的な話の内容の意味が伝わりやすくなります。
では、どんなものを「たとえ」に使うといいのでしょうか。
大切なのは、伝える相手にとって「理解しやすいもの」を選ぶことです。(相手ベース)
相手が1人ならその人が理解しやすいものを、相手が複数ならみんなが理解のしやすいものを選びます。
たとえば、相手が野球が好きだとしたら、こんなイメージです。
例)先輩が野球好きの後輩に仕事について伝える場面です。
『仕事は確かに野球のようなチームスポーツと言えるよね。例えば、ピッチャーはプロジェクトのスタートを切る存在。彼らが投げる「ボール」は新しいアイデアや計画で、チームの行動を決める重要な役割を果たすんだ。一方、バッターはそのアイデアを受け取り、成果を出す人。彼らが「ヒット」を打つことで、プロジェクトは進展し、スコア(成果)が生まれる。
守備は、その後の流れを支えるために欠かせない役割を持つ。例えば、プロジェクトの課題を素早くキャッチして解決する人や、仕事の進行を支える人が守備に該当するね。外野手は大きな視点で全体を見て、必要に応じてサポートする。皆が自分の役割を果たすことで、チーム全体が目標に向かって進むことができるんだ。
さらに、監督やコーチのようなリーダーシップも重要だね。彼らは全体の戦略を考え、個々のメンバーが力を発揮できる環境を作る。チームプレイの本質は、「一人ひとりの力を引き出し、全体として成果を上げること」にあるんだ。
野球の試合のように、仕事もチーム全員が連携し、目標を達成するためにそれぞれが役割を果たすことが成功への鍵なんだよね。』


この話、野球をよく知らない人が聞いてもいまいちピンとこないかもしれません。しかし、野球が好きな人には相当イメージしやすい「たとえ」です。
一方で、複数の相手に伝えるシーンでは、野球のような好みがわかれるたとえではなく、だれにでも共通してわかりやすいものにたとえると良いです。
たとえば、こんなイメージです。
例)先輩が仕事について居酒屋に紐づけて伝える場面です。
『まずさ、プロジェクトを始めるときの料理人って、新鮮な食材を選んで、しっかりアイデアを練って、心を込めて料理を作るよね。これがまさに、プロジェクトの最初の段階を任されるリーダーと同じ感じ。料理がちゃんと完成すれ
ば、次のステップに進む準備が整うんだ。
それから、料理をお客様に届けるホールスタッフの役割。完成した料理を丁寧に運んで、最高のおもてなしをすることで、目に見える成果が生まれる。これって、プロジェクトで成果を届ける「ヒット」を打つ瞬間だよね。
そして、裏方のスタッフ。皿洗いや掃除を担当する人たちって、普段は目立たないけど、すごく大事な役割を果たしてるんだ。課題をサッと見つけて解決したり、全体がスムーズに回るように支えてる。これ、チーム全体の流れを守る人にぴったり当てはまるよね。
店長の仕事は、居酒屋全体を見渡しながらスタッフとお客様をバランスよくつなぐこと。視野が広くて、柔軟に動ける店長って、プロジェクト全体をまとめるリーダーみたいな存在だよ。
最後に、オーナーはお店全体の方向性や戦略を考えて、みんなが安心して働ける環境を整える役割を担ってる。これって、チームを成功に導く監督みたいなポジションだよね。
こうやって考えると、居酒屋の運営と仕事って似てるよね。一人ひとりが自分の役割をきちんと果たして、みんなで協力することで、大きな成果が生まれるんだよね。これを意識するだけで、仕事の進め方がもっとスムーズになるかも』


このように、たとえ方を相手に合わせて変えることが重要です。
相手に考える時間を作る~間の法則~
心理学者のジョージ・ミラーは、人が瞬間的に覚えられる記憶容量は平均7つ(意味のある情報の塊として)としました。後に平均4つという説も出ていますが、いずれにせよ、人間の記憶容量は限られています。
「伝わる」ためには、相手が「覚えて、考えて、理解する」プロセスが不可欠です。
特に会話は一方通行に進むため、「間」を作ることで相手に余裕を与えることが重要です。プロの話し手は、スピーディーな会話の中にも効果的に「間」を取り入れています。「間」のない早口は内容が伝わりにくく、緊張や熱意から早口になる人は注意が必要です。
「間」の重要性は、怪談を思い浮かべるとよくわかります。「間」があることで怖さが演出され、聞き手は想像力を働かせることができます。早口の怪談では怖さが伝わりません。落語家やお笑い芸人も「間」を巧みに使い、会話にリズムを生み出しています。「間」を意識することで、会話はより伝わりやすくなるでしょう。


「数字」を使って頭の中をハッキリさせる~数字の法則~
『親が死ぬまでにしたい55のこと』という本の帯のコピーにはこう書いています。
「仮に親が現在60歳とすると… 20年(親の残された寿命)×6日間(1年間に会う日数)×11時間(1日で一緒にいる時間)=1320時間。つまり、あなたが親と一緒に過ごせる日数は、あと55日しかないのです!」
具体的な数字を使って計算をすることによって、「親と過ごす時間が思っているよりも実際はそんなにない」という驚愕の事実をわかりやすく表現したコピーです。
「親と過ごせる時間は意外と少ない」と言われるよりも、具体的に数字を使って説明をしてくれる方が、わかりやすく伝わります。
数字も「伝わる技術」の1つなんです。
1.あなたはたくさんの人の中から選ばれた栄えある1人です。
2.あなたは1000人の中から選ばれた栄えある1人です。
1.この牛肉は、とても希少な牛肉で100gで3000円します。
2.この牛肉は、年間100頭分しか出回らなくて100gで3000円します。
1.今からお話しする話でお伝えしたいポイントがいくつかあります。
2.今からお話しする話の中でお伝えしたいポイントは3つあります。
1と2の文を比較すると数字を使って説明をしている2の文章の方が「特別感」があるように感じられると思います。
・たくさんの人から選ばれたという抽象的な伝え方をするよりも、1000人という具体的な数字を提示される方がより「特別感」がでています。
・100gで3000円というお高い値段であっても単に希少といわれるよりも「年間100頭分しか出回らない」と言われた方が価格に納得がいくと思います。
・伝えたいポイントを3つと事前に伝えることで相手に話を聞く準備をさせることができます。
「伝わる」とは相手の頭の中に見える化させることです。数字を用いることで見える化しやすくなる効果があります。より効果的に数字を使うには、伝える相手にとってわかりやすい数字を使うことです。
たとえば、ここから目的地までの距離は210.975㎞ですと伝えるよりもフルマラソン5回分ですと伝える方がイメージがしやすくなります。
重要なのは伝えたい相手がイメージをしやすい数字を使うことです。


まとめ
今回は、柿内尚文さんの著書『バナナの魅力を100文字で伝えてください』から、「伝わる」ための様々な法則を解説してきました。比較の法則で魅力を際立たせ、フリオチの法則で興味を引きつけ、ファクトとメンタルの法則で相手の心に寄り添う。言いかえの法則でポジティブな印象を与え、たとえの法則でイメージを共有し、間の法則で理解を促し、数字の法則で具体性を加える。
これらの法則は、単に情報を伝えるだけでなく、相手に深く理解してもらい、共感を得て、行動を促すための強力な武器となります。日々のコミュニケーション、プレゼンテーション、文章作成など、あらゆる場面でこれらの視点を取り入れることで、「伝わらない」というpoisonな経験から解放され、「伝わる」喜びを実感できるはずです。
大切なのは、それぞれの法則を知識として理解するだけでなく、実際に意識して使ってみることです。最初はぎこちなくても、 回数を重ねるうちに、自然と使いこなせるようになるでしょう。そして、相手の反応を観察し、どの伝え方が効果的だったのかを フィードバックすることで、さらに「伝わる力」は磨かれていきます。
情報が溢れる現代において、「伝わる」技術はますます重要性を増しています。今回ご紹介した法則を参考に、あなたの言葉がより多くの人に届き、より良いコミュニケーションが生まれることを心から願っています。
最後までお読みいただきありがとうございました。また次回もよろしくお願いいたします。
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